Teaching materials list
教材リスト

公表の意義

 

石炭等化石資源中核人材育成事業(2007~2009年度)は九州大学梶山千里総長が経産省塚本修地域審議官と九州大学の将来構想を話し合う過程で、九州大学の強みを活かすひとつの試みとして推進することが合意された。本事業の推進・指導者として持田勲特任教授が任命され、全学の連携の基盤の上に実施された。 本事業は我が国のエネルギーと環境の中に占める石炭の特異な位置を認識して、そこに携わる人材を産官学が密接に連携し幅広く深くかつ多様に育成することを目指した。その試みの一つとして基礎基盤の学術・技術を浸透させる講義・セミナー・演習における伝達手段の媒体として教材開発を着想した。その成果をまとめた教材類は、わが国におけるエネルギー・素材・環境に関わる基礎知識、応用技術などを類別し、産業界の実例まで詳細に解説したものであり、大学、官界や産業界の当事者、とりわけ若手研究者・技術者、政策立案者向けに開発されたものである。わが国の高度成長を牽引した学術基盤、技術や知見を次世代に繋げるために熟練者たちが集い、彼らの国宝級の技術と英知が教材という形で本事業に参加した若い学生、研究者、技術者、官僚に聞いてもらった上で、残された無二の遺産でもある。この事業は2008年に設立された炭素資源国際教育研究センター(グリ ーンテクノロジー研究教育センターの前身)に引き継がれているが、石炭資源利用の日常化につれて、そこの事業は九州大学筑紫キャンパスに設立された炭素エネルギーセンター、アジアエネルギー環境センターに引き継がれているが、石炭資源利用の日常化につれて、その特異性に対する認識は希薄になりつつある。

化石資源中核人材育成事業が終了以来既に十余年が経過し、石炭等化石資源のエネルギー利用面における環境は一変した。特に気温上昇を2℃以内に抑えるために、今世紀後半に人間活動による温室効果ガスの排出ゼロを目指す目標を掲げたパリ協定の実現に向けた昨今の急速な動きの影響が大きいが、中核人材育成事業の成果である教材類には、すでに地球環境への影響や対策、新規材料としての利用、廃棄物最少化を目指した産業利用などSDGsの先駆けともなるものが多数含まれていることを強調したい。脱化石資源・脱炭素の風潮ではあるが、当時から効率化や放出CO2の捕捉・利用・貯留、バイオマス活用などを通じてCO2削減に寄与してきた技術や事業を展開して来たことも事実である。大気中のCO2濃度の直接削減に有効策もなしに化石資源を利用し続けるとすれば、地球環境が悲惨な状況になることは容易に推察できよう。逆に、再生可能エネルギーの普及した社会では、人類に与えられた化石炭化水素は地質学の一つの景観でしかなく、人類社会、文明を支える資源としての役割は皆無にとどまることができるのであろうか?

事業当時の先端研究・技術といえども時とともに陳腐化することは避けられないため、多数の執筆者にお願いしてこの機会に教材によってはデータの更新、アップデートを行った上で九州大学石炭等化石資源中核人材育成事業成果のアーカイブスとして広く公表することとした。一方、課題解決手法や対策手法など、時代を超えて有益なヒントを提供できる内容も含まれているため、当時の開発教材をそのまま掲載する場合もある。執筆者の同意は必要であるが、時代で社会や技術が進歩したのか、価値観が変化したのかの変遷の記録も残したい。
脱化石資源の時代の今こそ、電力、製鉄、商社など産業界はもちろん、学界、官界など資源・素材に関わる若手技術者、研究者向けに未来を賢く生き抜ぬくための研究・教育基盤と指針を提供する格好の教材として活用頂けることを念願している。

2021年11月26日

持田 勲(九州大学名誉教授) mochida@keea.or.jp
尹 聖昊(九州大学教授) yoon@cm.kyushu-u.ac.jp
荒牧寿弘(事務局) t_aramaki@cm.kyushu-u.ac.jp

 

公表までの経緯

 

九州大学の中核人材育成プロジェクト(平成19~21年)のミッションは、化石資源を利用してきた産業界の人的資源が枯渇する前に、先人が構築されてきた英知を活用して人材を育成する手段を修得すること、実地で体験・実施することでした。その一環として、後世に伝達すべき内容を「教材」として次世代に遺す意義は極めて重大であることを共有しました。そこで、各界のご支援の下、多くの教材開発委員の方々に“九大での実証講義のために使用する教材開発”へのご協力を要請し、6分野の日本語版(36科目)に加え、一部は英語版(13科目)として教材を開発することができました(※1添付ファイル)。
その後、大学院生や企業の若手向けの公開講座で活用される一方、開発教材の公表の意義が極めて高いことは強く認識してきましたが、著作権の明確化やその移転などの問題から悲願のまま公表を実現できずに今日に至りました。 開発教材を通じて次世代を担う大学や研究機関の若手に産業界の知られざる実態を周知する効果は大きいと今でも期待されています。教材に現在進行中の最新の研究成果を付加することも有意義ですが、「当時の内容だけの教材」だとしても、化石資源に携わるすべての方々にとって課題解決のヒントを提供できるものと思われます。

当時のプロジェクトを先導された持田教授の強い意を受けて、2018年末来、有識者の方々に教材の公表にむけた事前のご相談をしてきた中で、皆様からご賛同や建設的なご意見を頂戴しました。これを受け、広く教材執筆者の方々へのアンケート調査を重ね、大多数の賛同が得られたことを踏まえ、公表できる運びとなりました。この間、大学関係機関の改変や新型コロナ感染拡大が長期化するなど予期せぬ事態もあって紆余曲折しましたが、ユン教授の努力で、九州大学webサイト(※2)を通じて公表できる運びになりました。
公表に際しては、アクセス不能の教材執筆者、一部の非賛同者、著作権の問題などの課題が残ることを考慮して、既存の開発教材を一括してではなく、ご賛同が得られたもの、改訂された教材を優先的に編成することによってハードルは下げられるものと推測しています。

公開版については読者の反応やご意見を期待しています。修正が必要と判断される場合は、執筆者につないで加筆修正をお願いしたいと考えています。当初描いていた方式ではありませんが、人手や資金、時間的制約などの実情からすると査読に代わり得る現実的、効率的方法だと考えたからです。執筆者の方々にはご理解、ご了承いただければ幸いです。

本事業代表持田勲九大名誉教授の瑞宝中綬章受章(2021年4月)と軌を一にするように公表が実現できるに至ったことは九州大学尹聖昊教授の尽力によるところが大きく、改めて謝意を表します。

荒牧寿弘(事務局・学外担当)

石炭等化石資源高度利用中核人材育成・教材開発